「退去費用が高すぎる」「敷金が返ってこない」——こうした賃貸退去時のトラブルは、毎年1万件以上が国民生活センターに寄せられています。2025年2月21日、国民生活センターは改めて注意喚起の情報を公表しました。

この記事では、公表された最新の相談事例と、不当請求に対する実践的な対処法をまとめます。


相談件数は年間1.3万件超で高止まり

国民生活センターのPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された、賃貸住宅の退去費用・原状回復に関する相談件数は以下のとおりです。

年相談件数
2022年12,885件
2023年13,273件
2024年13,277件

2024年は前年とほぼ横ばいで、高水準が続いています。相談の約4割が原状回復費用をめぐるトラブルと言われており、「知識があれば防げた」ケースが多数含まれています。


公表された最新の相談事例

事例① 入居1年半で全室クロス張替え費用14万円を請求

以下は国民生活センター(2025年2月21日公表)に寄せられた相談事例です。

約1年半居住した3LDK(家賃約10万円・敷金約20万円)の賃貸マンションを退去した。退去時の立会いの際、クロスは退去する際にいつも全面張替えをしていると言われた。納得できないと伝えたところ、張替え費用が当初よりも減額されたが、各部屋のクロス張替え費用約14万円を請求され、契約書の特約にあるハウスクリーニング費用と合わせ約20万円を請求されている。ハウスクリーニング費用は契約時に説明があり、契約書にも明記されているため支払うが、クロス張替えについては契約書に記載がなく、入居した時からあった傷なども費用に含まれており金額に納得できない。

出典:国民生活センター「賃貸住宅退去時トラブルの対処法」(2025年2月21日)

この事例の問題点:

  1. 「いつも全面張替え」は通らない:クロスは損傷箇所のみ(最大で同一面)の張替えが原則。入居前からの傷を借主負担にすることはできない
  2. 1年半入居のクロス負担割合:耐用年数6年に対して入居1.5年の場合、残存価値割合は約75%。仮に借主負担が生じるとしても、修繕費の75%が上限となる

事例② 4年入居で90万円の請求(後に70万円に減額)

以下は国民生活センター(2025年2月21日公表)に寄せられた相談事例です。

4年間入居して退去したところ、精算書に約90万円の修繕費が請求された。交渉の結果70万円に減額されたが、それでも納得がいかない。

出典:国民生活センター「賃貸住宅退去時トラブルの対処法」(2025年2月21日)

この事例の問題点:4年間の入居で90万円(交渉後も70万円)という請求は、一般的な相場(1K〜2LDKで数万〜十数万円)を大きく超えています。国交省ガイドラインに基づく残存価値計算をすれば、大幅な減額が見込まれるケースです。

ポイント:この事例のように、「交渉したら少し下がった」という場合でも、それが適正額かどうかは別問題です。交渉で妥結する前に、ガイドラインに基づいた試算を行うことが重要です。


なぜトラブルが解決しないのか

国民生活センターの分析によると、退去費用トラブルが解決しにくい背景には以下の構造的な問題があります。

知識の非対称性

貸主・管理会社側は費用請求のノウハウを持っているのに対し、借主側は退去費用のルールをほとんど知らないまま請求書を受け取るケースが大半です。

立場の弱さと心理的プレッシャー

退去直後は引越し先の生活立ち上げで忙しく、「早く解決したい」という心理から、不当な請求でも支払ってしまうことがあります。立会い時にその場でサインを求められるケースも多く、冷静な判断ができない状況が作られています。

「特約があるから」という誤解

ハウスクリーニング費用や壁紙の全額負担などの特約が契約書に記載されていると、「書いてあるから払わなければならない」と思い込むケースがあります。しかし、特約は内容・説明の有無によっては無効になります。


国民生活センターが推奨する対処法

Step 1 請求内容を書面で入手する

口頭や概算ではなく、各工事項目・数量・単価が記載された精算書を書面で受け取ることが最初のステップです。「一式○○万円」のような内訳のない請求書には、必ず内訳の開示を求めてください。

Step 2 ガイドラインと照合する

国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(2011年再改訂版)に基づいて、請求内容が妥当かどうかを確認します。

  • 通常損耗・経年劣化は貸主負担
  • 借主負担項目も耐用年数による残存価値計算が必要

検証の具体的な手順は「退去費用の見積もり検証ガイド完全版」を参照してください。

Step 3 消費者ホットライン「188」に相談する

請求内容に納得がいかない場合は、**消費者ホットライン「188(いやや!)」**に電話してください。最寄りの消費生活センターにつながり、無料で相談・あっせんを受けられます。

  • 受付時間:各センターにより異なる(多くは平日9〜17時)
  • 費用:無料
  • あっせん成立率:消費生活センター経由の相談は一定割合で解決

消費生活センターへの相談手順の詳細は「退去費用は消費生活センターで解決できる?相談前の準備と手順」を参照してください。

Step 4 解決しない場合は少額訴訟を検討する

消費生活センターのあっせんでも解決しない場合は、少額訴訟(60万円以下の請求が対象)を検討できます。弁護士なしで申し立て可能で、費用も数千円から数万円程度です。

少額訴訟の手順は「退去費用を少額訴訟で取り返す方法|費用・手順・勝率」を参照してください。


トラブルに遭いやすいケース

国民生活センターへの相談データから、以下のようなケースで高額請求のトラブルが発生しやすいことがわかっています。

ケース注意点
短期入居(1〜2年)入居年数が短いと経年劣化による減額が少なく、請求額が高くなりやすい
長期入居(7年以上)本来は借主負担がほぼゼロになるはずが、高額請求されるケースが多い
敷金ゼロ物件退去時に一括で高額請求されるリスクが高い
ペット・喫煙あり特別損耗として過剰な請求が来やすい
立会い時に即日サイン内容を確認する時間がないままサインさせられるケース

入居時からできる予防策

国民生活センターは「入居時からできる対策」も呼びかけています。

  1. 入居時に部屋の状態を写真・動画で記録する(日時付き)
  2. 既存の傷・汚れを管理会社にメールで申し送りする
  3. 契約書の特約を入居前に必ず確認する
  4. 退去立会いでその場でサインしない(持ち帰って検討する権利がある)

入居時の記録方法の詳細は「入居時チェックリスト|退去費用トラブルを入居前に防ぐ記録の残し方」を参照してください。


まとめ

  • 賃貸退去費用トラブルの相談件数は年間1.3万件超で高水準が続いている
  • 「入居1年半で長期修繕費を請求」「4年入居で90万円請求」など悪質な事例が公表されている
  • 請求書の内訳を書面で取得→ガイドラインと照合→188番に相談、の流れで対処する
  • 消費生活センターのあっせんでも解決しない場合は少額訴訟が有効
  • 入居時の記録・写真が退去費用トラブルの最大の予防策

請求内容が適正かどうかすぐに確認したい場合は、退去費用診断ツールを活用してください。