退去時の費用トラブルが多い場所のひとつが浴室・バスルームです。カビや水垢は「通常の生活でも発生する」ものと「手入れ不足による放置」のものがあり、どちらが借主負担になるかの線引きが曖昧になりやすい部位です。
この記事では浴室・バスルームの項目別の費用負担の考え方と、適正な請求額の目安を解説します。
基本的な考え方
浴室は水を使う空間のため、カビや水垢が生じやすい場所です。国交省ガイドラインでは、通常の清掃を行っていれば防げない汚れは貸主負担、清掃を怠ったことで生じた汚損は借主負担という原則があります。
ただし「どの程度の清掃を怠ると借主負担になるか」は判断が難しく、請求のグレーゾーンになりやすい部位です。
項目別の費用負担
水垢・石けんカス
| 状態 | 負担区分 |
|---|---|
| 通常の使用でできる水垢・石けんカス | 貸主負担 |
| 長期間放置し清掃で落ちない水垢の固着 | 借主負担 |
水垢は水道水に含まれるミネラルが蒸発して残るもので、通常使用でも発生します。退去時に水垢があること自体は問題になりません。ただし、市販の洗剤で落とせる程度を大きく超えた固着汚れが蓄積している場合は、善管注意義務違反として借主負担になる可能性があります。
カビ
| 状態 | 負担区分 |
|---|---|
| 換気が不十分な構造的問題によるカビ | 貸主負担 |
| 通常の換気・清掃でも生じる軽微なカビ | 貸主負担 |
| 換気扇を使わない・清掃しないことで生じたカビ | 借主負担 |
| 壁材に浸透するほどの重度のカビ | 借主負担 |
カビは結露・湿気の問題とも関連します。貸主側の設備(換気扇の不具合、断熱不足など)が原因の場合は貸主負担です。詳しくは「退去費用の結露・カビ費用負担|貸主負担になるケース」を参照してください。
コーキング(シーリング)の劣化
浴室の壁・浴槽周りのコーキングは経年で劣化・変色・剥がれが生じます。
| 状態 | 負担区分 |
|---|---|
| 経年劣化によるコーキングの変色・ひび割れ | 貸主負担 |
| コーキング剥がれを放置して水が浸入した結果の損傷 | 借主負担(善管注意義務違反) |
コーキングの劣化は10〜15年ほどで自然に生じるため、通常使用の範囲であれば借主負担にはなりません。
浴槽の傷・変色
| 状態 | 負担区分 |
|---|---|
| 通常使用による浴槽の色あせ・小傷 | 貸主負担 |
| 入浴剤の長期使用による着色・変色 | グレーゾーン(入浴剤の種類・程度による) |
| 落下物や衝撃による浴槽の欠け・ひび | 借主負担 |
浴槽の黄ばみ・落ちない水垢はどう扱われるか
樹脂(FRP)製の浴槽は、通常の使用でも紫外線や湯温の影響で徐々に黄ばんでいきます。築年数相応の黄ばみ・艶落ちは経年劣化であり、貸主負担が原則です。「浴槽が変色しているので交換費用を負担してください」という請求は、変色の原因が借主の使い方にあると示されない限り、根拠が弱い請求といえます。
水垢についても、清掃で落ちる水垢・石けんカスは通常のクリーニング範囲(特約の有無で判断)ですが、磨いても落ちない水垢の固着や艶落ちは経年変化の領域で、研磨・コーティング費用を借主に求めるのは過剰になりやすい項目です。
なお、浴槽・ユニットバス本体の交換費用が計上されている場合は、ユニットバスの耐用年数が建物の耐用年数に準ずる(国交省ガイドライン)ことから、築年数の古い物件では残存価値がかなり低くなっている可能性があります。年数と負担の関係は退去費用を払わなくていい年数の早見表で確認できます。
換気扇
| 状態 | 負担区分 |
|---|---|
| 換気扇フィルターの通常汚れ | 貸主負担 |
| 長期間清掃せず固着した汚れ | 借主負担 |
| 設備の老朽化による交換 | 貸主負担 |
排水口・排水管
| 状態 | 負担区分 |
|---|---|
| 排水口の通常の髪の毛・ごみ詰まり | 貸主負担 |
| 清掃を長期放置した固着詰まり・臭い | 借主負担 |
浴室クリーニングの適正単価
ハウスクリーニング(浴室清掃)は、原則として有効な特約がない限り貸主負担です。借主負担で請求できるのは、特約がある場合か、明らかな手入れ不足が認められる場合のみです。
| 項目 | 適正単価 | 過剰ラインの目安 |
|---|---|---|
| 浴室クリーニング(通常) | 8,000〜15,000円 | 25,000円超は要確認 |
| 浴室クリーニング(重度汚損) | 15,000〜25,000円 | 40,000円超は要確認 |
| コーキング打ち直し(1式) | 10,000〜25,000円 | 50,000円超は要確認 |
| 換気扇清掃 | 5,000〜10,000円 | 20,000円超は要確認 |
ハウスクリーニング全般の特約についての詳細は「ハウスクリーニング特約は無効になる?有効条件を判例で検証」を参照してください。
手元の精算書の浴室項目が上の単価目安と比べてどうかは、退去費用診断ツール で参考値を確認できます。
浴室の費用が高くなりやすいパターン
「カビが酷い」として壁材の全面交換を請求される
実際には清掃で対応できるカビにもかかわらず、壁材の全面交換(タイルやFRP壁のコーティング等)を請求されるケースがあります。清掃で対応できる範囲の汚れに対して壁材交換を要求することは過剰請求の可能性があります。
コーキング全面打ち直しを請求される
浴室周囲のコーキングは一部の劣化であれば部分的な補修で済むはずです。「一式で全面打ち直し」として高額請求される場合は内訳を確認してください。
精算書の確認手順
- 浴室関連の請求項目を一覧にする
- 各項目が「通常損耗・経年劣化(貸主負担)」か「手入れ不足・過失(借主負担)」かを判断する
- 借主負担項目は耐用年数と残存価値を確認する
- ハウスクリーニングは特約の有効性を確認する
- 単価が適正かを上記の相場表と照合する
見積もり書全体の検証手順は「退去費用の見積もり検証ガイド完全版」、耐用年数の計算方法は「退去費用の経年劣化・耐用年数の計算方法」を参照してください。
まとめ
- 通常の使用でできる水垢・軽微なカビは貸主負担
- 手入れを長期放置した固着汚れ・重度カビは借主負担(善管注意義務違反)
- コーキングの経年劣化は貸主負担。放置して生じた二次損害は借主負担になる場合がある
- 浴室クリーニングは原則貸主負担。借主負担にする特約の有効性を確認する
- 浴室クリーニングの適正単価は8,000〜15,000円。25,000円超は過剰を疑う
実際の請求書を手元に置いて参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツール をご利用ください。