子供の落書きによる退去費用は、国土交通省のガイドライン上「故意・過失による損耗」として借主負担が原則です。ただし、クロス(壁紙)の耐用年数は6年で、経過年数に応じて残存価値が減価します。3年住んでいれば材料費の負担目安は50%、6年を超えていれば材料費はほぼ1円まで下がります。

この記事でわかること

  • 子供の落書き・シール跡・壁の凹みなど、損耗ごとの借主・貸主の負担区分
  • クロスの単価相場と、経過年数別の残存価値早見表(1年83%〜6年以上1円)
  • 精算書の数値を使ったケーススタディ2件と、退去前・立会い時に取るべき行動

子供の落書きの退去費用は借主負担が原則|ただし全額とは限らない

結論から言うと、落書きは「通常の使用を超える損耗」にあたり借主負担が原則ですが、負担額は経過年数と請求範囲で大きく変わります。

ガイドラインでは落書きは「故意・過失による毀損」に分類される

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)の別表1では、壁・天井の項目に「落書き等の故意による毀損」が明記され、借主負担とされています。子供の行為であっても、借主(契約者)は同居家族の行為について善管注意義務を負うため、責任は借主に帰属します。

一方、民法621条は通常損耗と経年変化を原状回復義務の対象外と定めており、生活していれば自然に生じる程度の汚れや擦れは貸主負担です。

材料費は経過年数で減価する、工賃は別扱いになる場合がある

ガイドラインはクロスの耐用年数を6年とし、経過年数に応じて借主の負担割合を減らす考え方を採用しています。これは落書きにも適用され、3年居住なら材料費の負担目安は50%、6年以上なら残存価値は1円です。

ただし、ガイドラインは耐用年数を超えた設備でも、借主の故意・過失で毀損した場合には工事費(人件費等)の負担が生じることがあるとしています。「材料費はほぼゼロ、工賃相当は協議の余地あり」と理解しておくのが実務的です。

子供関連の損耗の負担区分一覧

損耗の内容負担区分経過年数の考慮補足
クロスへの落書き借主あり(6年で1円)毀損箇所を含む一面分が目安
シール跡借主あり(6年で1円)軽微で跡が残らなければ通常損耗の余地
おもちゃで付けた壁の凹み借主あり(6年で1円)石膏ボードの補修費は別途
床(フローリング)のキズ借主部分補修は考慮なし全面張替えは建物耐用年数
画鋲・ピン穴貸主—通常損耗(下地ボードの張替えが不要な程度)
家具の設置跡・へこみ貸主—通常損耗
子供の生活による軽微な汚れ貸主—通常損耗・経年変化

画鋲穴の扱いは「退去費用の画鋲・ピン穴は払わなくていい?判定基準と反論手順」で整理しています。

床のキズは、部分補修なら経過年数を考慮しない点がクロスと異なります。「退去費用のフローリング負担|部分補修と全面張替えの判断基準」を参照してください。


クロス張替えの相場と「一面分」の請求範囲

結論として、子供の落書きで請求されるクロス張替え費用の参考値は、**「一面分の㎡数 × 単価 × 残存価値割合」**で求めます。部屋全体の張替え費用をそのまま請求する精算書は、この式に当てはめると参考値の2〜4倍になっていることがあります。

クロス単価の相場と6畳一面・部屋全体の費用感

一般的な量産品クロスの張替え単価は、材料費・施工費込みで1㎡あたり1,000〜1,500円程度が目安です。

範囲面積の目安費用の目安(1,000〜1,500円/㎡)
6畳の壁一面約10㎡10,000〜15,000円
6畳の壁+天井(部屋全体)約40㎡40,000〜60,000円

ガイドラインの「毀損箇所を含む一面分まで」の考え方

ガイドラインは、クロスの張替えについて「毀損箇所を含む一面分まで」を借主負担の目安としています。

裏を返せば、落書きが1面にしかないのに壁4面+天井を張り替える費用を請求する根拠は、ガイドライン上は弱いということです。

クロス全面請求の正当・不当の線引きは「退去時にクロス全額請求はおかしい?正当・不当の線引きを検証」で詳しく検証しています。

残存価値の計算式と年数別早見表

クロスの残存価値は、次の式で求めます。

残存価値割合 = 1 − (経過年数 ÷ 耐用年数6年)
借主負担の参考値 = 一面分の張替え費用 × 残存価値割合
経過年数残存価値割合一面分15,000円の場合の参考値
1年約83%約12,500円
2年約67%約10,000円
3年50%7,500円
4年約33%約5,000円
5年約17%約2,500円
6年以上1円材料費はほぼ0円(工賃は別途協議)

経過年数は、入居時にクロスが新品でなかった場合、前回張替え時からの年数で計算するのがガイドラインの考え方です。

自分の請求書で参考値を確認する →

経年劣化の計算全般については「退去費用の経年劣化・耐用年数の計算方法|自分でできる負担額の試算」も参考にしてください。


ケーススタディ|子供の落書きの精算書を数値で検証

以下はいずれも参考値で、実際の負担額は契約内容や協議で変わります。

ケース①:3年居住・リビング1面に落書き・請求「クロス全面張替え80,000円」

精算書の内容

  • 居住期間:3年
  • 損耗:リビング(12畳)の壁1面に子供のクレヨンの落書き
  • 請求:クロス全面張替え(壁4面+天井 約60㎡)80,000円

検証

  1. 請求範囲:落書きは1面のみ。一面分(幅約5m × 高さ2.4m ≒ 12㎡)が目安
  2. 単価:80,000円 ÷ 60㎡ ≒ 1,333円/㎡ → 相場の範囲内
  3. 一面分の張替え費用:12㎡ × 1,333円 ≒ 16,000円
  4. 残存価値:3年経過 → 50%
  5. 参考値:16,000円 × 50% = 8,000円

請求額80,000円に対して参考値は8,000円で、約10倍の開きがあります。仮に施工費を減価の対象外としても、一面分の16,000円が上限の目安で、部屋全体分を負担する根拠は見当たりません。

ケース②:6年超居住・子供部屋2面に落書き・請求60,000円

精算書の内容

  • 居住期間:7年(入居時にクロスは新品)
  • 損耗:子供部屋(6畳)の壁2面に落書きとシール跡
  • 請求:子供部屋クロス張替え(約40㎡)60,000円

検証

  1. 請求範囲:落書きは2面。2面分(約16㎡)が目安で、部屋全体40㎡の請求は範囲が広い
  2. 残存価値:7年経過 → 耐用年数6年を超えているため1円
  3. 材料費の参考値:ほぼ0円
  4. 残る論点:工賃(人件費)相当をどう扱うか

材料費はほぼ負担なしが原則で、協議の対象は「2面分の施工にかかる人件費相当」に絞られます。材料費と施工費の内訳の提示を求めたうえで、施工費部分についてのみ協議するのが現実的です。6年を超えた場合の考え方は「6年住んだ賃貸の退去費用の相場|クロス・エアコンは借主負担ゼロが原則」で詳しく解説しています。


子供の落書きで損しないために取るべきアクション

結論として、効果が大きいのは「退去前の軽い清掃」「写真記録」「精算書の4項目チェック」の3つです。

退去前に自分で消せる範囲は消しておく

クレヨンや鉛筆の落書きは、消しゴムや中性洗剤を含ませた布で軽く拭くと薄くなることがあります。ただし、強く擦るとクロスの表面が毛羽立ち、かえって「毀損」と評価されるリスクがあります。落ちない場合は無理をせず、油性ペンの深追いは禁物です。

写真記録と立会い時の確認

退去立会いの前に、落書きの場所・大きさ・面数を写真で記録しておきます。当日は担当者と一緒に損耗箇所を確認し、「落書きは1面のみ」「他の面は通常損耗」といった認識をその場ですり合わせてください。損耗範囲が確定しないまま書面にサインすると、後日の協議が難しくなります。立会いの具体的な進め方は「退去立会いで損しない|当日の注意点とサイン前の確認事項」にまとめています。

精算書で「面数・㎡・単価・経過年数」の4項目を確認する

精算書が届いたら、次の4項目を確認します。

確認項目確認する内容過剰請求のサイン
面数落書きのある面だけか損耗のない面・天井が含まれている
㎡数一面分の面積と合っているか「一式」で㎡数の記載がない
単価1,000〜1,500円/㎡の範囲か2,000円/㎡超で理由の説明がない
経過年数残存価値割合が反映されているか居住年数に関係なく100%負担

自分の請求書で参考値を確認する →

なお、UR賃貸住宅や公営住宅でも、経過年数を考慮した減価の考え方は基本的に同様に適用されます。


よくある質問

Q. 子供の落書きは親(借主)が全額払わなければなりませんか?

借主負担が原則ですが、全額とは限りません。クロスは耐用年数6年で残存価値が減価するため、3年居住なら材料費の負担目安は50%、6年以上ならほぼ1円です。請求範囲も毀損箇所を含む一面分までが目安です。

Q. 落書きが1面だけなのに部屋全体のクロス張替え代を請求されました。

ガイドラインは「毀損箇所を含む一面分まで」を目安としており、損耗のない面や天井まで含めた請求は過剰の可能性があります。面数と㎡数の内訳を求め、一面分の参考値と比較してください。

Q. 6年以上住んでいれば落書きがあっても退去費用はゼロですか?

材料費は残存価値1円が原則ですが、ガイドラインは故意・過失による毀損の場合に工事費(人件費等)の負担が生じることがあるとしています。材料費はほぼゼロ、工賃相当は協議の余地ありと理解しておくのが現実的です。

Q. 子供が貼ったシールの跡も落書きと同じ扱いですか?

粘着剤が残って下地が変色している場合は借主負担とされる可能性があります。跡がほとんど残らない軽微なものは通常損耗として扱われる余地があります。


まとめ

  • 子供の落書きはガイドライン上「故意・過失による毀損」で借主負担が原則。ただし全額負担とは限らない
  • クロスの耐用年数は6年。残存価値は1年83%・3年50%・6年以上1円。6年超でも工賃相当の負担は協議の余地あり
  • 請求範囲は「毀損箇所を含む一面分まで」が目安。部屋全体の張替え請求は過剰の可能性がある
  • クロス単価の相場は1,000〜1,500円/㎡。6畳一面(約10㎡)で1万〜1.5万円が目安。画鋲穴・家具跡は通常損耗
  • 退去前の軽い清掃、写真記録、精算書の「面数・㎡・単価・経過年数」の確認が有効

実際の請求書を手元に置いて参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツールをご利用ください。