2026年7月のクロス・建材値上げのニュースを見て、「自分が退去するときに費用が高くなるのでは」と不安に感じている方は少なくないと思います。退去費用におけるクロスや建材の値上げは、結論からいえば「工事原価が上がる話」であり、国土交通省ガイドラインに基づく借主負担額の算定ロジック自体は変わりません。本記事では、何がどう値上がりするかを整理したうえで、ガイドラインの原則・値上げを口実にした不当請求のパターン・お手元の請求書を確認する4つのポイントを解説します。
この記事でわかること
- 2026年7月のクロス・建材値上げが退去費用に与える影響の有無
- ガイドラインの原則(通常損耗は貸主負担/耐用年数6年で残存価値1円)は単価値上げと無関係であること
- 値上げを口実にした不当請求の3パターンと、請求書を確認する4つのポイント
2026年クロス値上げで「退去費用が上がる」と不安な方へ
結論として、建材の仕入単価が上がっても、借主負担額の算定ロジック(通常損耗の判定+耐用年数による減価)は変わりません。 ただし、値上げに紛れた不当請求が増える可能性はあるため、確認すべきポイントを押さえておく必要があります。
何がいつ、どれくらい値上がりするのか
内装材大手のサンゲツは、2026年7月1日受注分から壁装材・床材・ファブリック・エクステリア・副資材・接着剤等を値上げすると公表しています。値上げ幅は**18〜30%**程度とされ、中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ価格の上昇が背景です。
出典:サンゲツ「取引価格改定に関するお知らせ」(2026年4月13日公表)/『日本経済新聞』2026年4月14日「サンゲツ、壁紙や床材など18〜30%値上げ」
サンゲツが先行して価格改定を行うと、リリカラ・シンコール・ルノン・トキワ産業など競合メーカーも追随することが多く、業界全体での値上がりとなる可能性が指摘されています。原材料コストの構造は各社共通であるためです。
加えて、内装材だけでなく断熱材・配管材・副資材(接着剤・ジョイントコーク・下地処理剤)も値上げ対象となっており、原状回復工事費は総合的に押し上げられる方向にあります。
「資材値上げ → 退去費用増」と直感的に思いがちだが、結論は別
「資材が値上がりすれば自分の退去費用も上がる」と直感的に感じるかもしれませんが、退去費用における借主の負担額は、単価そのものではなく、ガイドラインに基づく判定・減価ルールで決まります。
具体的には次の2段階で算定される考え方です。
- その損耗が通常損耗(貸主負担)か特別損耗(借主負担)か
- 仮に借主負担と判定されても、耐用年数による経過年数の減価が反映される
このどちらのロジックも、単価の値上げと直接の関係はありません。次の章で具体的に確認します。
ガイドラインで見る、建材値上げが借主負担に与える影響
結論として、ガイドラインの原則は単価値上げの影響を受けません。 工事費の総額は上がっても、借主が負担すべき範囲・金額の算出ロジックは同じです。
国交省ガイドラインの大原則 — 通常損耗は貸主負担
国土交通省の原状回復ガイドラインは、退去時の損耗を次のように区分しています。
- 通常損耗・経年劣化:通常の使用で発生する損耗。貸主負担
- 特別損耗:借主の故意・過失・善管注意義務違反・通常の使用を超える使用による損耗。借主負担
出典:国土交通省 住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)』(平成23年8月)「原状回復の定義」
この区分は損耗の発生原因によって決まるものであり、補修に使う資材の仕入単価とは無関係です。ガイドラインの詳細は原状回復ガイドラインをわかりやすく解説もあわせて参考にしてください。
クロス耐用年数6年・残存価値1円ルールは値上げと無関係
仮に借主負担と判定された場合でも、クロス(壁紙)には耐用年数6年・残存価値1円のルールが適用されます。経過年数に応じて借主負担を減価する考え方で、次のような計算式で借主負担割合を求められます。
借主負担割合 = 1 −(経過年数 ÷ 6年)
出典:国土交通省 住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)』(平成23年8月)「経過年数の考慮」より、クロス(壁紙)は耐用年数6年で残存価値1円となるよう直線(または曲線)を想定して負担割合を算定する。
仮に張替え単価が値上がりして総工事費が10万円になったとしても、入居3年で借主負担と判定された場合の負担割合は 1 −(3 ÷ 6)= 0.5 で、5万円が上限の目安となります。仮に入居6年以上なら残存価値はほぼゼロで、たとえ張替えが必要でも借主負担はほぼ生じない計算です。
つまり、単価が上がっても「借主が払う割合」のロジックは同じということです。耐用年数の計算方法は退去費用の経年劣化・耐用年数の計算方法で具体例とともに解説しています。
なお、クロス以外でもカーペット・クッションフロアは同じく耐用年数6年が適用されます。一方で、ハウスクリーニング費用は経過年数を考慮しないルールのため、特約の有無によって扱いが変わる項目です。
自分の請求書を手元に置いて参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツールで照らし合わせることができます。
値上げを口実にした不当請求の3パターン(検証視点)
結論として、値上げに便乗した不当請求は次の3パターンが想定されます。 ガイドラインの原則と照らし合わせれば、それぞれ妥当性を検証できます。
パターン① 「資材値上がりで」と㎡単価を相場以上に盛る請求
「資材が値上がりしているので㎡あたり3,000円かかります」のように、業界相場を上回る単価を提示するパターンです。
量産品クロスの一般的な相場は㎡あたり800〜1,200円とされており、ハイグレード品でも1,500〜2,000円程度が目安です。これを大きく上回る単価が提示された場合は、見積書の根拠(仕入伝票・業者の標準単価表)の開示を求める必要があります。
「値上げ」を理由にする場合でも、実際の改定幅(18〜30%)を超えた請求は説明がつきません。
パターン② 「全面張替えが必要」と毀損範囲を超えた面単位の請求
ガイドラインは「毀損部分の補修に必要な最低限度」を借主負担の原則としつつ、クロスの場合は「毀損箇所を含む一面まで借主負担を認める」としています。
しかしこれはあくまで借主負担と判定された毀損が存在する場合の話です。「値上がりで全面張替えが効率的だから」という理由で複数面・全室の張替えを借主に請求するのは、ガイドラインの原則を超えます。同様の構造は退去時のクロス全額請求は正当かでも詳しく検証しています。
パターン③ 耐用年数による経過年数の減価を反映しない請求
仮に借主負担と判定されても、入居年数による減価が必要です。値上げを口実に「単価×面積」だけで請求し、経過年数の減価を反映しないパターンも考えられます。
入居3年なら借主負担割合は0.5、入居6年以上ならほぼゼロという原則は、単価が上がっても変わりません。減価が反映されているかを必ず確認します。
このような過剰請求の典型例は退去費用の過剰請求パターンと反論法にもまとめています。
請求書を受け取ったときに確認する4つのポイント
結論として、値上げの時代だからこそ、請求書は次の4点で検証する必要があります。
① ㎡単価が業界相場と整合するか
- 量産品クロス:㎡800〜1,200円
- ハイグレード品クロス:㎡1,500〜2,000円
- 値上げ後でも、量産品で㎡2,500円を超える単価は根拠の確認が必要
「資材値上がり」を理由にする場合、改定幅と現行相場を踏まえて妥当な範囲かを照らし合わせます。
② 経過年数による減価が計算式で反映されているか
入居年数が3年なら借主負担割合は 1 −(3 ÷ 6)= 0.5。6年以上なら残存価値はほぼゼロで、借主負担はほぼ生じません。
請求書に「経過年数を考慮した負担割合」の計算過程が示されているかを確認します。明示がなければ、開示を求めます。
③ 通常損耗と特別損耗の区分が明示されているか
「クロス張替え 一式 ○万円」だけでは、通常損耗(貸主負担)と特別損耗(借主負担)の切り分けが検証できません。
請求項目ごとに「損耗の原因」「該当箇所の写真」が示されているかを確認します。一式請求への対処は退去費用のおかしい請求を見抜くチェックも参考にしてください。
④ 「資材値上がり」を理由とした上乗せに根拠資料があるか
「値上がりで」と口頭で説明されただけでは検証できません。仕入伝票・業者標準単価表・サンゲツ等の改定通知のような根拠資料の提示を求めます。
書面での内訳開示を依頼する文面例は退去費用の内訳開示を求めるメール文例に整理しています。
よくある質問
Q1. 2026年7月以降に退去すると、退去費用は本当に高くなりますか?
ガイドラインに基づく借主負担額の算定ロジックは変わらないため、原則として「同じ条件なら借主負担額は変わらない」と考えられます。ただし、工事原価が上がる分、業者・管理会社が請求金額を盛りやすい環境にはなる可能性があります。請求書の内訳と単価の検証がより重要になります。
Q2. クロスの仕入単価が値上がりしても、借主の負担額も比例して上がるのですか?
借主の負担額は「単価×面積×経過年数による負担割合」で決まります。単価が18〜30%上がっても、通常損耗と判定されれば借主負担はゼロのままですし、特別損耗でも経過年数で減価されます。比例して上がるとは限りません。
Q3. 「資材値上がりで」と言われたら、借主は受け入れるしかないのですか?
受け入れる必要はありません。資材値上げは事実としても、ガイドラインの原則は変わらないため、通常損耗・特別損耗の区分や経過年数の減価が反映されていない請求には、内訳開示を求めて検証することが可能です。
Q4. 入居中に資材値上がりがあった場合、退去時はどの時点の単価が適用されますか?
退去時点で必要となる工事の実勢単価が適用されるのが一般的です。ただし、借主が負担すべき範囲(通常損耗か特別損耗か)は単価の話とは別軸で判定されます。「いつの単価か」よりも「そもそも借主負担か」「経過年数で減価されるか」を優先して確認します。
Q5. 値上げ前に結んだ契約書の特約は、値上げ後も有効ですか?
特約の有効性は値上げの有無では変わりません。消費者契約法第10条との関係で、借主に一方的に不利な内容は無効とされる可能性があり、これは値上げ前も後も同じ判断基準です。特約に金額の上限や対象範囲が具体的に明記されているかが、有効性を判断する重要な要素となります。
まとめ
2026年7月のクロス・建材値上げ(サンゲツ等で18〜30%)は、原状回復工事費の総額を押し上げる可能性がある一方で、ガイドラインに基づく借主負担額の算定ロジックは変わりません。通常損耗は貸主負担、特別損耗のみ借主負担、クロス耐用年数6年・残存価値1円のルールはすべて維持されます。
ただし、値上げに紛れた不当請求が増える可能性は備えるべきで、次の4点で請求書を検証することが大切です。
- ㎡単価が業界相場と整合するか
- 経過年数による減価が計算式で反映されているか
- 通常損耗と特別損耗の区分が明示されているか
- 値上げを理由とする上乗せに根拠資料があるか
請求の妥当性をより詳しく検証する手順は、退去費用の見積もり検証ガイド完全版もあわせて参考にしてください。
実際の請求書を手元に置いて項目ごとに参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツールをご利用ください。