退去時に「ベランダの清掃費用」「バルコニーの汚れの補修費」として退去費用を請求されたとき、本当に借主が払うべき項目なのか迷う方は多いはずです。結論からいうと、ベランダ・バルコニーの汚れの大半は通常損耗にあたり、退去費用としては原則貸主負担となります。本記事では、国交省ガイドラインと判例をもとに、ベランダ請求の「原則」と借主負担になる5つのパターン、見積もりを検証する4つのチェックポイントを整理します。

この記事でわかること

  • ベランダ/バルコニー/テラス/専用庭の違いと、退去時に「原則貸主負担」になる4種類の汚れ
  • 借主負担になる「故意・過失」5パターンと反論可能な境界線
  • ベランダ請求書を検証する4つのチェックポイント(防水層・排水溝・清掃特約・全面請求)

ベランダ・バルコニーの退去費用は「原則貸主負担」が出発点

ベランダ・バルコニーの汚れは、原則として通常損耗にあたり、貸主負担となるのが出発点です。退去費用の見積もりに「ベランダ清掃」「バルコニー補修」と記載されていても、それが当然の借主負担とはいえません。

国交省ガイドライン上の位置づけ(通常損耗の典型例)

国土交通省 住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)』(平成23年8月)では、退去時に借主が負担するのは「故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等」とされており、通常の使用に伴う損耗(通常損耗)と経年劣化は貸主負担と整理されています。

ベランダ・バルコニーは屋外に面しているため、砂ぼこり・雨染み・排気ガス汚れ・日焼け(紫外線による色褪せ)といった汚れは、住んでいる限り誰でも発生するもので、典型的な通常損耗として扱われます。

ベランダ/バルコニー/テラス/専用庭の用語整理(負担範囲の違い)

似たような屋外スペースでも、退去費用の負担範囲は微妙に異なります。

用語位置借主の手入れ義務退去時の負担範囲
ベランダ2階以上・屋根あり日常清掃のみ通常損耗は貸主負担
バルコニー2階以上・屋根なし日常清掃のみ通常損耗は貸主負担
テラス1階・地面に接する日常清掃のみ通常損耗は貸主負担
専用庭1階・植栽あり植栽の管理含む雑草放置・植栽枯死は借主負担の可能性

ベランダ・バルコニー・テラスの3つはほぼ同じ扱いで、いずれも「日常清掃の範囲を超える掃除義務」は借主にありません。一方、専用庭だけは植栽の手入れ義務があるため、雑草を長期間放置して根が排水管を詰まらせた場合などは借主負担が発生し得ます。

貸主負担になる「通常損耗」4種

ベランダ・バルコニーで発生する汚れのうち、次の4種類は通常損耗として原則貸主負担となります。

  • 砂ぼこり・落ち葉:風で運ばれる自然の汚れ
  • 雨染み・水垢:雨水による床面・壁面の変色
  • 排気ガス汚れ:道路沿いの物件で生じる黒ずみ
  • 日焼け・色褪せ:紫外線による床塗装・防水層の劣化

これらは「普通に住んでいれば誰でも発生する」性質のため、借主の故意・過失とはいえません。「ベランダの黒ずみ清掃」「床面の色褪せ補修」が見積もりに含まれていれば、まず通常損耗にあたらないかを確認してください。


借主負担になる「故意・過失」5パターン

借主負担となるのは、通常損耗を超えた「故意・過失」または「善管注意義務違反」に該当する5つのパターンです。それぞれに反論可能な境界線があります。

①鉢植えの水漏れ・土こぼしによる床面シミ

植木鉢の水受けから水があふれ、長期間放置した結果、床面に円形の濃いシミができた場合は借主負担になり得ます。ただし、軽い水濡れ跡や薄い汚れであれば、雨染みとの区別がつかず通常損耗の主張が可能です。

②たばこのヤニ・焼け焦げ

ベランダで喫煙を続け、床面にヤニが付着した・焼け焦げ穴ができた場合は借主負担です。ただし、喫煙によるヤニ汚れは室内クロスと同様に「経過年数を考慮した残存価値」を主張できる余地があります。

③ペットの粗相・引っ掻き傷

ペットの排泄物による床面の腐食、爪痕による塗装剥離は借主負担です。ペット飼育が契約で許可されている場合でも、通常使用を超える損耗は借主負担とされるのが一般的です。

④掃除を長期間怠ってカビ・排水溝詰まり(善管注意義務違反)

数年単位で清掃を怠り、排水溝が枯葉・髪の毛で完全に詰まって階下漏水を引き起こした、床面に厚さ数センチのカビが発生した場合は、善管注意義務違反として借主負担になり得ます。ただし「日常的な清掃を超える特別な掃除」は借主の義務ではないため、軽度のカビは貸主負担の主張が可能です。

⑤私物の長期放置による腐食・床面塗装剥離

自転車・段ボール・物干し台などを同じ場所に何年も置き続け、床面の塗装が完全に剥がれた・防水層が劣化した場合は借主負担になり得ます。ただし、私物の設置自体は通常使用の範囲内であり、「長期間」「特定箇所への集中」「経年劣化との切り分け」が論点になります。


ベランダ請求の「相場」と全面交換請求の見分け方

ベランダ請求の妥当性を判断するには、業界相場と耐用年数の考え方を押さえる必要があります。

ベランダ清掃の業界相場

業者公表の一般的な価格帯では、ベランダ清掃の相場は次のとおりです。

内容相場
部分清掃(汚れ箇所のみ)3,000〜5,000円
ベランダ全面清掃(1平米あたり)500〜1,500円
ベランダ全面清掃(〜5平米)5,000〜10,000円
ベランダ全面清掃(〜10平米)10,000〜20,000円

見積もりに「ベランダ清掃 一式 30,000円」などの記載があり、相場の1.5倍を超える場合は、内訳の開示を求めて単価・面積の根拠を確認してください。

防水層(FRP・ウレタン)補修は経過年数控除なしの建物耐用年数扱い

ベランダ床面の防水層(FRP樹脂・ウレタン塗装など)は、国交省ガイドラインの考え方に照らすと「建物耐用年数に準ずる」設備で、フローリング全面張替えと同様、経過年数控除の対象になりません。

つまり、防水層の経年劣化による剥離・ひび割れは原則として貸主の修繕義務(民法606条)に該当し、借主負担にはなりません。「防水塗装の全面塗り直し」が見積もりに入っていたら、まず経年劣化扱いになっていないか確認してください。

計算式:清掃単価 × 面積 × 残存価値割合

ベランダ清掃そのものは消耗品扱いで経過年数控除がない(ハウスクリーニングと同様)一方、床面の塗装・防水層は耐用年数を考慮できます。借主負担額のあたりは次の式で計算できます。

適正な借主負担額 ≒ 清掃単価 × 面積 × 残存価値割合
残存価値割合 =(耐用年数 − 居住年数)÷ 耐用年数

たとえば床面塗装(耐用年数の目安10年)で居住5年なら、残存価値割合は約50%。請求が10,000円なら借主負担の目安は5,000円程度となります。

自分のベランダの面積と入居年数からベランダ清掃の借主負担額の参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツール で照らし合わせられます。


ベランダ請求を検証する4つのチェックポイント

実際の請求書を検証するときは、次の4ポイントを順番に確認します。

チェック①「ベランダ清掃 一式」の一式請求になっていないか

「ベランダ清掃 一式 30,000円」のような一式請求は、内訳を確認する権利があります。施工面積(平米)・単価・含まれる作業内容(高圧洗浄/床面研磨/防水塗装など)の開示を書面で求めてください。内訳開示の具体的な手順は退去費用の一式請求の内訳開示を求める方法を参照してください。

チェック②通常損耗(砂ぼこり・雨染み)が借主負担に紛れ込んでいないか

請求項目に「ベランダ全体の黒ずみ清掃」「雨染み除去」「日焼け補修」が含まれていれば、通常損耗が借主負担に紛れ込んでいる可能性があります。これらは国交省ガイドライン別表上、貸主負担と整理されているものです。

チェック③防水層・排水溝の経年劣化補修が借主に転嫁されていないか

「FRP防水塗装」「排水溝のシール打ち直し」「床面塗装の全面塗り直し」は、建物附属設備の経年劣化補修にあたり、原則として貸主の修繕義務(民法606条)に含まれます。借主の故意・過失がない限り、これらは借主負担にはなりません。

チェック④「ベランダ清掃特約」に金額明示・通常損耗超過の合意があるか

契約書に「退去時のベランダ清掃費用は借主負担」という特約があっても、無条件で有効ではありません。室内のハウスクリーニング特約と同じ判断枠組み(後述)が適用されます。

ベランダの請求書を4つのチェックポイントで検証したい場合は、退去費用診断ツール で項目ごとの参考値を確認できます。


借主負担と言われても反論できる3つの判断軸

「契約書に書いてある」「特約で合意済み」と言われても、次の3つの軸で反論できる可能性があります。

軸①通常損耗の原則(国交省ガイドライン別表1・3)

国交省ガイドラインの別表1「賃借人の通常の使用により生ずる損耗等の例」では、屋外に面した設備の自然劣化は貸主負担と整理されています。「砂ぼこり」「雨染み」「日焼け」が請求項目に含まれていれば、まずこの原則を根拠に交渉できます。詳しい考え方は原状回復ガイドラインをわかりやすく解説を参照してください。

軸②入居時から汚れていた(入居時チェックリストの活用)

入居時のチェックリスト・写真があれば、入居時から存在していた汚れ・傷を借主負担にされている請求を否定できます。入居時の物件状況確認書を保管していれば、退去時の請求項目と照合してください。予防策の詳細は入居時チェックリストで退去費用トラブルを防ぐ方法も参考になります。

軸③清掃特約は「金額明示+通常損耗超過の合意」がなければ無効の可能性

室内のハウスクリーニング特約について、最高裁第二小法廷判決(平成17年12月16日)は「通常損耗の範囲が契約書に具体的に明記されているか、口頭説明により借主が明確に認識し合意した」場合に限り有効と判示しました。前橋簡易裁判所判決(平成31年2月4日)も、金額や算定方法の記載がない清掃特約を無効と判断しています。

この判断枠組みは屋外のベランダ清掃特約にも応用可能で、「ベランダ清掃費用は借主負担とする」とだけ書かれた特約は、金額・通常損耗超過の合意・署名捺印の3要件を満たさない限り無効の可能性があります。


よくある質問(FAQ)

Q. ベランダの掃除をせずに退去すると退去費用はいくら請求されますか?

A. 日常清掃を完全に怠った場合でも、通常損耗の範囲(砂ぼこり・雨染み)は貸主負担です。借主負担となるのは「数年単位の放置による排水溝詰まり」「厚さ数センチのカビ」など善管注意義務違反に該当する場合に限られ、業界相場では5,000〜20,000円程度が目安となります。退去前にどこまで掃除すべきかは 退去時のベランダ掃除はどこまでやるべきか で確認できます。

Q. ベランダの防水塗装が剥がれていたら借主負担になりますか?

A. 防水塗装の剥がれは経年劣化として原則貸主負担です。FRP樹脂・ウレタン塗装の耐用年数は10〜15年とされており、借主の故意・過失(重量物を引きずった、薬品をこぼしたなど)がない限り、民法606条の修繕義務として貸主が負担します。

Q. ベランダのカビは経年劣化ですか、それとも借主負担ですか?

A. 軽度のカビ(拭けば取れる程度)は通常損耗で貸主負担です。借主負担となるのは、長期間清掃を怠り床面に深く根を張ったカビ・階下に漏水するレベルの排水溝詰まりなど、善管注意義務違反と評価される場合に限られます。

Q. 専用庭の手入れを怠った場合、退去費用に含まれますか?

A. 専用庭はベランダ・バルコニーと異なり、植栽の手入れ義務が借主に課されているケースがあります。雑草の長期放置による植栽枯死・根詰まりによる排水管損傷などは借主負担になる可能性があります。ただし、契約書に「植栽管理は借主の義務」と明記されているかが論点になります。


まとめ

  • ベランダ・バルコニーの汚れは原則貸主負担。砂ぼこり・雨染み・排気ガス汚れ・日焼けは通常損耗の典型例
  • 借主負担になるのは「故意・過失」5パターン(鉢植え水漏れ/たばこ/ペット粗相/長期清掃放置/私物放置)に限られる
  • 防水層・排水溝の経年劣化補修は民法606条の貸主修繕義務で、借主に転嫁できない
  • 一式請求は内訳開示を求め、通常損耗が紛れ込んでいないかを確認
  • ベランダ清掃特約も室内クリーニング特約と同様、金額明示・通常損耗超過の合意がなければ無効の可能性

ベランダ請求は「掃除しなかったから払うのが当然」と言われがちですが、ガイドラインの原則に立ち戻れば貸主負担となる項目が大半です。請求書の根拠を確認し、適正な金額のみを負担するようにしましょう。

実際の請求書を手元に置いて参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツール をご利用ください。