1年未満で退去する場合、退去費用が高くなりやすいのは事実です。クロスの耐用年数(6年)に対して入居期間が短いほど残存価値が高く、借主が過失損傷を負担する場合の金額が大きくなります。

ただし「短期入居だから全額払わなければならない」わけではありません。通常損耗は貸主負担という原則は入居期間に関わらず適用されます。短期入居特有の過剰請求パターンを知ることが重要です。


1年未満退去の費用相場

入居期間別の適正相場(1K・通常使用の場合)

入居期間適正相場(目安)過剰ラインの目安
3か月未満1万〜3万円5万円超は要確認
3〜6か月2万〜4万円6万円超は要確認
6か月〜1年2万〜5万円7万円超は要確認
1〜2年3万〜6万円8万円超は要確認

ハウスクリーニング特約が有効な場合(1K:3〜4万円)でも、通常使用であればその費用がほぼ全額になります。クロスや設備の損傷がなければ、追加費用はほとんど発生しません。

短期入居でも「通常損耗は貸主負担」の原則は変わらない

入居期間が短くても、以下は貸主負担です。

  • 日焼けによるクロスの変色(1年未満でも同様)
  • 家具設置によるへこみ・跡
  • 画びょう・ピンの穴(生活上やむを得ない範囲)
  • 設備の経年劣化による不具合

短期入居の場合、これらの通常損耗が「新品に近い状態から損傷した」として借主負担に付け替えられるケースが多くなります。


短期入居で借主負担になる場合の計算

クロスの残存価値は入居期間で変わる

短期入居の場合、クロスの残存価値が高いため、過失があった場合の借主負担は相対的に大きくなります。

借主負担上限額 = 修繕費用 × (1 − 経過年数 ÷ 6年)
入居期間残存割合例:クロス修繕5万円の場合の借主負担上限
6か月(0.5年)約92%約46,000円
1年約83%約41,700円
2年約67%約33,300円
3年50%25,000円

1年未満の入居で過失損傷がある場合、残存価値が高いため借主負担額は大きくなります。だからこそ「通常損耗なのに借主負担とされていないか」の確認が重要です。

短期解約違約金は退去費用とは別

「1年未満退去は違約金〇か月分」という特約がある場合、違約金は退去費用(原状回復費用)とは別です。

  • 短期解約違約金:契約上の違約金。入居時に説明・署名があれば有効
  • 退去費用(原状回復費用):損傷箇所の修繕費用。ガイドラインに基づいて計算

違約金が発生するとしても、原状回復費用の計算にガイドラインが適用されることに変わりはありません。「違約金があるから原状回復費も全額払え」は別問題です。


短期入居特有の過剰請求パターン

パターン① 「新品に戻す」費用の全額請求

「入居時に新品だったのだから新品の状態に戻してもらう」として、修繕費用の全額を請求するケースがあります。しかし、残存価値の計算は短期入居でも適用され、全額請求は認められません。

短期入居でも「入居期間÷耐用年数」の計算に基づく残存価値の計算が必要です。

パターン② クロスの「色合わせ」を理由にした全面張替え

1か所の傷を理由に「色が合わないから全室クロス張替えが必要」として全面張替え費用を請求するケースがあります。これは1Kで入居1年未満の場合でも見られます。

傷のある箇所の補修費用(1枚単位)が適正な請求額であり、デザイン統一のための全面張替えは借主負担の範囲外です。

パターン③ ハウスクリーニング費用の上乗せ

「短期間しか住んでいないのにクリーニングが必要」として、通常より高額なクリーニング費用を請求するケースがあります。ハウスクリーニングの相場(1K:25,000〜40,000円)を超えている場合は根拠を確認してください。

パターン④ 入居前から存在した損傷の請求

短期入居の場合、入居時に気づかなかった損傷(前の入居者による傷など)が退去時に発覚し、借主の責任として請求されるケースがあります。

入居時のチェックシートや写真が重要な証拠になります。「入居時からあった」と主張できる証拠があれば、その損傷の修繕費用は借主負担にはなりません。


短期入居で退去費用が高額だった場合の対処法

① 精算書の内訳を確認する

「原状回復費 一式」という記載があれば、まず内訳(施工内容・単価・面積)の明示を求めます。

② 通常損耗と借主過失を区別する

精算書の各項目について、損傷の原因が「通常の生活行為(貸主負担)」か「故意・過失(借主負担)」かを判断します。入居時と退去時の写真を比較してください。

③ 残存価値計算で適正額を算出する

過失損傷がある場合でも、残存価値計算後の金額が借主負担上限です。入居期間に基づく計算を行い、適正額を算出してください。

詳しい検証手順は「退去費用は交渉できる|減額の手順と交渉文例を解説」を参照してください。ちょうど1年住んだ場合の相場と計算方法は「退去費用1年住んだ場合の相場」で詳しく解説しています。

④ 消費生活センターへの相談

交渉が行き詰まった場合は消費生活センター(188)に相談できます。「退去費用は消費生活センターで解決できる?相談前の準備と手順」も参照してください。


まとめ

  • 1年未満退去でもクロスの残存価値計算は適用される。「新品費用の全額請求」は不当
  • 通常損耗は貸主負担という原則は入居期間に関わらず変わらない
  • 短期解約違約金と原状回復費用は別。違約金があっても原状回復費はガイドライン通りに計算する
  • 過剰請求パターンは①新品費用全額、②全面張替え、③クリーニング上乗せ、④入居前損傷の付け替え
  • 入居時の写真・チェックシートが短期入居の最大の防衛手段

見積書の内容が適正かどうか迷ったときは、退去費用診断ツールで確認してみてください。