1年住んだ賃貸の退去費用は、通常使用であれば3万〜6万円程度が相場です。ただし、1年という入居期間はクロス・設備の残存価値がまだ高く(約83%)、過失損傷があった場合は金額が大きくなりやすい時期です。

「1年しか住んでいないのに高い」という感覚は正しい場合もあります。通常の生活でついた汚れや傷は1年でも貸主負担が原則であり、この原則を知らずに払いすぎているケースが少なくありません。

この記事でわかること:

  1. 1年住んだ場合の退去費用の相場(間取り別目安)
  2. 「残存価値83%」の意味と計算への影響
  3. 1年入居で払いすぎるパターンと検証手順

1年住んだ場合の相場

間取り別・1年入居の相場目安

間取り適正相場(1年入居)過剰ラインの目安
1R・1K3万〜6万円10万円超は要確認
1DK・1LDK4万〜8万円13万円超は要確認
2DK・2LDK6万〜12万円18万円超は要確認
3DK・3LDK8万〜15万円25万円超は要確認

ハウスクリーニング特約が有効な場合はその費用が加算されます。通常使用で損傷がなければ、クリーニング費用が退去費用のほぼ全額になることが多いです。


1年住んだ場合の残存価値と借主負担

クロス・エアコン等(耐用年数6年)の残存価値は83%

国交省ガイドラインでは、耐用年数6年の設備(クロス・カーペット・クッションフロア・エアコン・給湯器)の残存価値を以下の式で計算します。

残存価値割合 = (耐用年数 − 経過年数) ÷ 耐用年数
            = (6年 − 1年) ÷ 6年
            ≒ 83%

1年入居では残存価値が高いため、借主に過失損傷がある場合の負担額は相対的に大きくなります。

過失があった場合の借主負担上限

修繕費用借主負担上限(1年・残存83%)
30,000円約25,000円
50,000円約41,500円
80,000円約66,000円
100,000円約83,000円

これはあくまで借主に過失がある場合の上限額です。通常の生活でつく汚れ・傷は過失に該当せず、残存価値に関わらず貸主負担が原則です。

参考値を手元の請求書と照らし合わせたい場合は、退去費用診断ツールをご利用ください。

居住年数別の残存価値比較(クロス等・耐用年数6年)

居住年数残存価値割合特徴
1年約83%借主過失時の負担が大きい
2年約67%2/3が上限
3年50%半額が上限
4年約33%1/3が上限
5年約17%1/6が上限
6年以上1円材料費の借主負担はほぼゼロ

(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」)


1年入居で払いすぎるパターン

パターン① 通常損耗を過失扱いにした請求

「1年しか住んでいないのに汚れている」として、通常の生活でつく汚れ(日焼け・軽微な汚れ・冷蔵庫の跡など)を借主の過失として請求するケースがあります。

以下は入居期間に関わらず貸主負担が原則です:

  • 日照・経年による壁紙の変色・黄ばみ
  • 家具設置による床のへこみ・跡
  • 画びょう・ピンの穴(生活上やむを得ないもの)
  • エアコンの通常使用による汚れ

パターン② 残存価値計算なしの全額請求

「1年で新品同様を返すべき」として、クロス・設備の修繕費用を年数控除なしで全額請求するケースがあります。

1年入居でも、借主の過失による損傷の負担上限は修繕費の83%です。100%を請求された場合は年数控除の適用を求めてください。

計算例:1K・1年入居でクロス全面張替え8万円請求(全額)

適正な借主負担上限 = 80,000円 × (6-1) ÷ 6 ≒ 66,700円
→ 過失があっても13,300円分は過剰請求の可能性

パターン③ 新品時との差額全額を請求

「入居時は新品のクロスだったから、新品に戻す費用を全額払え」という主張は認められません。残存価値の計算は「新品かどうか」ではなく「入居期間」で決まります。

パターン④ 入居前からの損傷の請求

1年という短い期間では、入居前から存在していた傷・汚れが発覚するケースがあります。入居時のチェックリストや写真が証拠として重要です。「入居時から存在していた」と主張できる記録があれば、その損傷は借主負担になりません。

パターン⑤ 短期解約違約金との混同

「1年未満退去は違約金」という特約がある物件では、違約金が発生することがあります。ただし違約金と原状回復費用は別です。違約金が発生しても、原状回復費はガイドラインに基づいて計算されます。1年未満の短期解約については「退去費用1年未満の相場|短期入居の高額請求への対処法」も参照してください。


精算書の検証手順

確認ポイント① 通常損耗か過失損耗かを判別する

請求項目ごとに「これは通常の生活でつく汚れか、自分の不注意によるものか」を判断します。通常損耗は貸主負担のため、請求から除外を求めることができます。

確認ポイント② 残存価値計算が適用されているか

「入居年数1年、残存価値83%」の控除が記載されているかを確認します。記載がない場合は管理会社に根拠の提示を求めてください。

確認ポイント③ ハウスクリーニング特約の有効性

ハウスクリーニング費用は契約書の特約に明記されている場合のみ借主負担です。特約がない場合、通常の清掃をして退去すれば貸主負担が原則です。


納得できない場合の対処法

精算書受け取り
 ↓
内訳開示・通常損耗と過失の区別・残存価値計算
 ↓
不当項目について書面で異議申し立て
 ↓ 解決しない場合
消費生活センター(188番)に相談
 ↓ 不調の場合
少額訴訟(差額30万円未満)または弁護士相談

交渉の具体的な手順と文例は「退去費用は交渉できる|減額の手順と交渉文例を解説」を参照してください。


よくある質問(FAQ)

Q. 1年しか住んでいないのにクロス全面張替え10万円請求されました。払う必要がありますか?

A. 借主に過失がある場合の上限は残存価値83%のため、10万円なら約83,000円が上限です。通常の汚れ・日焼けなど過失のない部分は貸主負担が原則のため、実際の負担はさらに少なくなる可能性があります。まず内訳を確認し、通常損耗と過失損傷を区別してください。

Q. 1年住んで敷金は返ってきますか?

A. ハウスクリーニング特約と損傷の有無によります。通常使用で損傷がなく、特約がない場合は敷金の全額返還が見込めます。特約がある場合でも、クリーニング費用(1K:25,000〜40,000円)の範囲内に収まれば、差額が返還されます。

Q. 1年で退去するとクロスを全額負担しなければなりませんか?

A. 過失損傷があっても全額ではなく残存価値83%が上限です。過失がなければ負担はゼロが原則です。「1年だから全額」という主張はガイドラインに沿っていません。

Q. 1年住んだ1LDKの退去費用の相場はいくらですか?

A. 通常使用の場合、1LDKで4万〜8万円程度が相場です。ハウスクリーニング特約(35,000〜55,000円)がある場合はその費用が主体となります。13万円を超える請求は内訳の確認が必要です。

Q. 退去費用1年と2年では差はありますか?

A. クロス等の残存価値は1年で83%・2年で67%のため、過失損傷がある場合は1年のほうが借主負担は大きくなります。ただし通常使用の場合、ハウスクリーニング費用が主体になるため、差は少ないです。


まとめ

  • 1年住んだ場合の退去費用の相場は3〜6万円(1K・通常使用)
  • クロス等(耐用年数6年)の残存価値は1年時点で約83%。過失があれば修繕費の83%が借主負担上限
  • 通常損耗は1年でも貸主負担。日焼け・家具跡・画びょう穴などは過失に当たらない
  • 「1年だから全額」「新品に戻す費用を全額払え」はガイドラインに反する
  • 短期解約違約金と原状回復費用は別。違約金があっても原状回復費はガイドライン通りに計算する
  • 納得できない場合は内訳確認→書面交渉→消費生活センター(188番)の順で対応する

参考資料

  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
  • 消費者契約法 第10条
  • 民法621条(賃借人の原状回復義務)