15年・20年住んだ賃貸の退去費用の相場は、通常使用であればハウスクリーニング特約分+実費の小修繕が中心で、1Kで1〜3万円、2LDKで3〜6万円、3LDKで4〜8万円程度が目安です。長く住むほど借主負担は増えるのではなく、減るのが原則です。

根拠は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)の残存価値の考え方です。耐用年数6年の設備だけでなく、耐用年数15年の便座・洗面台も15年時点で残存価値1円に到達します。

この記事でわかること

  • 15年・20年住んだ場合の間取り別相場と、残存価値がゼロになる設備の一覧
  • それでも負担が残る項目(フローリング全面張替え・鍵紛失・クリーニング特約)の考え方
  • 請求18万円・30万円の精算書を残存価値で検証したケーススタディと、取るべき行動

15年・20年住んだ退去費用の相場|長期入居ほど借主負担は減る

結論として、15年・20年住んだ場合の退去費用は「クリーニング代+借主の過失による小修繕の実費」がほぼすべてです。「長く住んで傷めたから多く払うべき」という考え方は、ガイドラインとは逆です。

間取り別の相場目安(15年・20年入居)

通常使用で、クリーニング特約が有効な場合の目安です。10年住んだ賃貸の退去費用の相場|適正額と検証方法と同じ水準で、10年を超えると年数による差はほとんどなくなります。

間取り相場目安(15年・20年入居)相場の1.5倍超(要確認ライン)
1R・1K1万〜3万円5万円超
1DK・1LDK2万〜4万円7万円超
2DK・2LDK3万〜6万円10万円超
3DK・3LDK4万〜8万円15万円超

内訳はほぼハウスクリーニング費用で、設備の損傷がなければそれ以外の項目は原則として発生しません。

なぜ長く住むほど安くなるのか|残存価値の考え方

ガイドラインでは、借主の過失で修繕が必要になった場合でも、経過年数に応じた残存価値までしか借主は負担しないとされています。

残存価値割合 = 1 −(経過年数 ÷ 耐用年数)

15年・20年住んだ場合、借主の過失で汚したクロス(耐用年数6年)でも材料費の負担は原則ゼロで、発生するとしても補修の工賃相当分のみです。民法621条も、通常損耗と経年変化は借主の原状回復義務に含まれないと定めています。

「長く住んだから全面リフォーム代を」は原則として通らない

15年・20年の退去では「古くなったので全面リフォーム費用を負担してほしい」という請求が見られます。しかしガイドラインは、物件の価値を高める修繕(グレードアップ)を借主負担としない立場です。築年数が経った物件の全面改装や大規模修繕は貸主が行う維持管理にあたり、退去と重なっただけで借主に転嫁されるものではないのが原則です。


15年・20年で残存価値がゼロになる設備一覧

結論として、15年時点で耐用年数6年の設備と耐用年数15年の設備はすべて残存価値1円に到達します。20年でも同じです。

耐用年数6年・15年の設備|15年でも20年でも残存価値1円

設備耐用年数15年時点20年時点
クロス(壁紙)6年1円1円
クッションフロア・カーペット6年1円1円
畳床6年1円1円
エアコン・給湯器・インターフォン6年1円1円
便座・便器15年1円1円
洗面台15年1円1円

これらの項目で「材料費込みの全額」が請求されていれば、ガイドラインの残存価値の考え方と整合していない可能性があります。

それでも一定の負担が残るもの|建物耐用年数・経過年数考慮なし

項目計算の考え方15年・20年での目安
フローリング全面張替え建物耐用年数で計算木造22年:15年で約32%、20年で約9%。RC造47年:15年で約68%、20年で約57%
フローリング部分補修経過年数考慮なし過失による傷の補修実費(部分補修が原則)
鍵の紛失経過年数考慮なしシリンダー交換費用が借主負担
ハウスクリーニング特約による特約が有効なら固定額(間取りにより2〜7万円程度)

フローリングは過失による傷でも部分補修が原則で、全面張替えは損傷が全面に及ぶ場合に限られます。判断基準は「退去費用のフローリング負担|部分補修と全面張替えの判断基準」で解説しています。

上の計算式に手元の請求書の項目をあてはめれば、自分の負担上限を確認できます。

自分の請求書で参考値を確認する →


長期入居ならではの注意点|契約書・設備交換・特約追加

結論として、15年・20年の退去でトラブルになりやすいのは金額そのものより「書類と記録」です。

契約書・特約が古い、または紛失している

15年・20年前の契約書は現行ガイドライン(再改訂版は2011年)より前の内容で、通常損耗を一律に借主に負わせる特約が残っていることがあります。こうした特約は、最高裁平成17年12月16日判決により明確な合意が必要とされ、消費者契約法10条で無効と判断される可能性があります。契約書を紛失した場合は、管理会社に写しの交付を依頼してください。

入居時の写真がない・設備が途中で交換されている

長期入居では入居時の写真が残っていないのが普通ですが、貸主側も入居時の状態を証明する資料を持たないことが多く、損傷を借主の過失と断定しにくくなります。

入居中にエアコン・給湯器・クロスなどが交換されている場合、耐用年数の起算点は交換した時点です。入居12年目に交換されたエアコンは、15年退去時点で経過年数3年、残存価値は約50%です。交換履歴は管理会社に確認してください。

更新時の特約追加・タバコやペットの損耗

更新契約書にハウスクリーニング特約や定額の原状回復費用が追加されていることがあります。署名した書面があれば有効と判断される可能性があるため、更新書類もすべて確認してください。

タバコのヤニやペットの傷は特別損耗として借主負担が原則ですが、6年を超えていればクロス・クッションフロアの残存価値は1円のため、材料費の負担はほぼゼロで工賃相当分のみが目安です。詳しくは「退去費用が払わなくていい年数|6年で主要設備はほぼゼロ」を参照してください。


精算書の検証ケーススタディ|請求18万円と30万円を残存価値で計算

結論として、以下の2例はどちらも参考値が請求額の4分の1程度です。精算書を耐用年数ごとに仕分けするだけで、根拠のある金額が見えてきます。

例① 2DK・15年入居・請求18万円

請求項目請求額耐用年数残存価値で計算した参考値
クロス全面張替え100,000円6年0〜10,000円(過失箇所の工賃のみ)
クッションフロア張替え30,000円6年0円(残存価値1円)
ハウスクリーニング40,000円特約による40,000円(特約が有効な場合)
鍵交換(紛失なし)10,000円—0円(紛失がなければ貸主負担が原則)
合計180,000円約40,000〜50,000円

クロスとクッションフロアは15年経過で残存価値1円のため、材料費は借主負担にならないのが原則です。鍵交換は紛失がなければ、ガイドラインで貸主負担と例示されています。参考値は約4〜5万円で、請求額は参考値の約4倍です。

例② 3LDK・20年入居・木造・請求30万円

請求項目請求額計算の考え方残存価値で計算した参考値
フローリング全面張替え200,000円建物耐用年数22年約18,000円(残存価値約9%)
クロス全面張替え50,000円耐用年数6年0円(残存価値1円)
ハウスクリーニング50,000円特約による50,000円(特約が有効な場合)
合計300,000円約70,000円

木造で20年経過するとフローリングの残存価値は約9%になり、全面張替えが必要でも借主負担は約1.8万円が目安です。部分補修で足りる傷なら補修実費に置き換わります。参考値は約7万円で、請求額は参考値の約4倍です。

なお、RC造(耐用年数47年)なら残存価値は約57%で、合計の参考値は約16万円まで上がります。契約書で建物構造を確認してください。計算手順は「退去費用の経年劣化・耐用年数の計算方法|自分でできる負担額の試算」で解説しています。

自分の請求書で参考値を確認する →


長期入居の退去で取るべき5つのアクション

結論として、「書類をそろえる→内訳を出してもらう→耐用年数で仕分ける→交渉する」の順に進めます。

  1. 契約書・更新書類・特約を確認する:手元にない場合は管理会社に写しの交付を依頼する
  2. 設備の交換履歴を管理会社に確認する:交換時点から耐用年数を起算する
  3. 精算書の内訳開示を書面で依頼する:「一式」ではなく単価・数量・施工範囲を出してもらう
  4. 項目を耐用年数ごとに仕分けする:「6年」「15年」「建物耐用年数」「経過年数考慮なし」の4区分に分ける
  5. 根拠を示して交渉する:「入居15年でクロスの残存価値は1円のため、材料費の請求根拠をご説明ください」のように数字を添えて書面で伝える

特約が争点なら「ハウスクリーニング特約は無効になる?有効条件を判例で検証」、全体像は「賃貸退去費用の相場まとめ|間取り・年数・特殊事情別に解説」を参考にしてください。


よくある質問

Q. 15年住んだアパートの退去費用は、何も壊していなくても請求されますか?

ハウスクリーニング特約が有効であれば、その分(1Kで1〜3万円程度)は請求される可能性があります。それ以外の通常損耗・経年変化は貸主負担が原則です。

Q. 20年住んだら退去費用はゼロになりますか?

耐用年数6年・15年の設備は残存価値1円のため材料費の負担はほぼゼロです。ただし、有効なクリーニング特約、鍵の紛失、フローリング全面張替え(建物耐用年数で計算)、過失による部分補修の実費は残る可能性があります。

Q. 長期入居で「全面リフォーム代」を請求されました。払う必要がありますか?

築年数が経った物件の全面改装はグレードアップや貸主の維持管理にあたり、借主負担にならないのが原則です。内訳の開示を求め、各項目を耐用年数で仕分けて確認してください。


まとめ

  • 15年・20年住んだ退去費用の相場は、通常使用なら1K 1〜3万円、2LDK 3〜6万円、3LDK 4〜8万円が目安で、内訳はほぼクリーニング特約分
  • 耐用年数6年の設備(クロス・CF・エアコン・給湯器等)も耐用年数15年の設備(便座・洗面台)も、15年時点で残存価値1円
  • フローリング全面張替えは建物耐用年数で計算(木造は15年で約32%、20年で約9%)。鍵紛失とクリーニング特約は経過年数を考慮しない
  • 「長く住んだから全面リフォーム代を」はグレードアップ・大規模修繕にあたり、借主負担にならないのが原則
  • 契約書の紛失、設備交換の起算点、更新時の特約追加を確認し、内訳開示を受けて耐用年数ごとに仕分けして交渉する

実際の請求書を手元に置いて参考値を確認したい場合は、退去費用診断ツールをご利用ください。