5年住んだ賃貸を退去するとき、費用の相場は5〜6万円程度です。ただし、高額な見積もりが届いた場合は「払いすぎ」になっているケースが少なくありません。5年という居住期間は、多くの設備がほぼ償却済みになるタイミングであり、ガイドラインを知っていれば適切に交渉できる立場にあります。
この記事では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と耐用年数データをもとに、5年住んだ場合に妥当な退去費用の水準と、見積もりを検証する方法を解説します。
5年住んだ賃貸の退去費用、いくらが「普通」か?
結論として、5年住んだ1K〜1LDK物件の退去費用の相場は5万円前後です。2LDK以上の広い間取りでも8〜10万円程度が目安になります。
居住年数別の退去費用相場
| 居住年数 | 相場の目安(1K〜1LDK) |
|---|---|
| 1年未満 | 3万円前後(ハウスクリーニング中心) |
| 1〜3年 | 3〜5万円 |
| 4〜6年 | 5〜7万円 |
| 7〜10年 | 7〜9万円 |
| 10年以上 | 3〜5万円(設備がほぼ全額償却済み) |
10年以上になると費用が再び下がる傾向があるのは、クロスや設備の残存価値がゼロに近づくためです。
5年は「設備の償却が進んだ」タイミング
5年という居住期間には、意外と有利な側面があります。国交省ガイドラインで定められた耐用年数6年の設備(クロス・カーペット・エアコンなど)は、5年時点で**残存価値が約17%**まで下がっています。つまり、借主が過失で損傷させた箇所であっても、貸主が約83%を負担するのが原則です。
他の居住年数・間取り別の相場は退去費用の相場まとめで一覧できます。
5年で多くの設備が「ほぼ償却済み」になる仕組み【ガイドライン根拠】
多くの設備は5年住むと残存価値がほぼゼロに近づきます。これは「知っているか知らないか」で退去費用の負担額が大きく変わる重要なルールです。
国交省ガイドラインが定める「残存価値」とは
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、借主の過失による損傷であっても、設備の経過年数に応じた残存価値しか借主に請求できないと定めています。
計算式は次のとおりです。
借主の負担額 = 修繕費用 × (耐用年数 − 入居年数)÷ 耐用年数
5年住んでクロスに過失損傷があった場合:
借主の負担割合 = (6年 − 5年)÷ 6年 ≒ 17%
クロス張替えの見積もりが10万円だった場合、借主が負担する上限は約1.7万円です。残りの約8.3万円は貸主負担が原則となります。
部位別・耐用年数と5年時点の残存価値
| 設備名 | 耐用年数 | 5年時点の残存価値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| クロス(壁紙) | 6年 | 約17% | 6年で残存価値1円 |
| カーペット | 6年 | 約17% | 6年で残存価値1円 |
| クッションフロア | 6年 | 約17% | 6年で残存価値1円 |
| エアコン | 6年 | 約17% | 6年で残存価値1円 |
| 給湯器 | 6年 | 約17% | 6年で残存価値1円 |
| 畳表 | 消耗品 | 経過年数考慮なし | 都度交換が前提 |
| 便座・便器 | 15年 | 約67% | まだ残存価値が高い |
| 洗面台 | 15年 | 約67% | まだ残存価値が高い |
| フローリング(全面) | 建物耐用年数に準ずる | — | 木造22年・RC47年 |
(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)
フローリングとハウスクリーニングは例外的な扱い
フローリングの全面張替えは建物の耐用年数(木造22年、RC造47年)に準じるため、5年程度では残存価値がまだ高い状態です。一方で部分補修(キズや凹みの補修)は経過年数を考慮しないとされており、損傷箇所の補修費用が実費請求されるケースがあります。
ハウスクリーニングは「経過年数を考慮しない」扱いです。ただし、特約として契約書に明記されている場合にのみ借主負担となります。特約がなければ、通常の清掃をして退去すれば貸主負担が原則です。
あと1年住むとクロスの残存価値は1円になります。6年住んだ賃貸の退去費用相場も合わせてご確認ください。
【検証】5年住みで届いた見積もりを確認してみる
実際に5年住んだ1LDKの退去時に届きがちな見積もりを、ガイドラインで検証します。
ケース①:クロス全面張替え15万円の請求
- 物件:1LDK(約50㎡)
- 居住年数:5年
- 請求内容:クロス全面張替え 150,000円
検証結果:
クロスの耐用年数は6年。5年入居の残存価値は約17%(1/6)。
借主が負担できる上限 = 150,000円 × 1/6 ≒ 25,000円
差額125,000円分を全額請求するのは、ガイドラインの基準を約6倍超えた請求となります。損傷が借主の過失によるものとしても、妥当な負担は25,000円程度です。
なお、損傷が通常の生活でつく汚れ(日焼け・軽微な汚れ)であれば、そもそも借主負担はゼロが原則です。
ケース②:エアコンクリーニング2万円 + ハウスクリーニング4万円の請求
- エアコン:室内機1台 20,000円
- ハウスクリーニング:1LDK 40,000円
エアコンクリーニングの検証:
エアコンの耐用年数は6年。5年使用では残存価値17%のため、過失による故障なら借主負担は約3,400円が上限。クリーニング費用は使用上の問題がなければ通常使用の範囲であり、特約がない限り借主負担にはなりません。
ハウスクリーニングの検証:
契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担」という特約が明記されているかを確認してください。特約の記載があれば原則として支払い義務が発生します。ただし、特約の金額が不当に高い場合や消費者に一方的に不利な条件は、消費者契約法第10条により無効となる可能性があります。
「払いすぎ」になりやすい請求項目チェックリスト
以下に該当する項目は、ガイドラインに照らして交渉の余地があるケースです。
- ☑ クロス・カーペット・クッションフロアの全額請求(5年入居なら上限17%が原則)
- ☑ 損傷のない部屋のクロス代まで含まれている
- ☑ フローリングの全面張替えを借主全額負担にしている
- ☑ 特約がないのにハウスクリーニング費用を請求している
- ☑ 入居時からあった傷や汚れを退去費用に含めている
クロスの全額請求についてはさらに詳しい解説をまとめています。→ 退去時にクロス全額請求はおかしい?正当・不当の線引きを検証
見積もりに納得できないときの対処法
見積もりを受け取って「高すぎる」と感じた場合、感情的に拒否するのではなく、ガイドラインを根拠に手順を踏むことが重要です。
①見積書の詳細内訳を書面で請求する
まず「内訳の書面交付」を求めましょう。確認すべき点は次のとおりです。
- 張替え面積(㎡)と単価(1㎡あたりの金額)
- 損傷箇所・対象部屋の明示
- 入居時チェックリストとの照合
内訳を出し渋る管理会社は、それ自体がトラブルの兆候です。内訳なしの一括請求は適正な根拠を欠いている場合があります。
②ガイドラインを根拠に書面で異議申し立てをする
内訳を確認したうえで不当な請求があれば、書面またはメールで異議を申し立てます。
異議申し立て文のポイント:
- 「国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に基づき、入居5年のクロスの借主負担は上限約17%と認識しています」
- 「上記根拠により、○○円を超える部分については応じかねます」
口頭でのやり取りは避け、必ず記録に残る形で連絡してください。
③解決しない場合の相談窓口
- 国民生活センター・消費生活センター:退去費用トラブルの相談実績多数、無料
- 各都道府県の宅地建物取引業協会:不動産取引のトラブル相談
- 弁護士会の法律相談:初回無料の窓口が多い
- 少額訴訟:60万円以下の金銭請求であれば、弁護士なしでも1回の審理で解決できる簡易な訴訟手続
まとめ
5年住んだ賃貸の退去費用について、重要なポイントを整理します。
- 相場は5〜6万円(1K〜1LDK)。これを大幅に超える見積もりは検証が必要
- クロス・エアコン・カーペット(耐用年数6年)の残存価値は5年時点で約17%。借主負担の上限は修繕費の約17%が原則
- フローリング全面張替えは建物耐用年数に準ずるため、別途確認が必要
- ハウスクリーニングは特約がある場合のみ借主負担。特約がなければ原則貸主負担
- 納得できない場合は、内訳を確認→書面で異議申し立て→相談窓口の順で対応する
「言われた金額をそのまま払う」前に、まず見積書の内訳を確認し、耐用年数を踏まえた計算を一度行うことをお勧めします。5年という居住期間は、設備の減価償却が大きく進んでいる時期であり、正しく交渉すれば支払額を適正化できる可能性が十分にあります。
参考資料
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
- 消費者契約法 第10条
- 民法621条(賃借人の原状回復義務)
- 東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」